第1章 イマーシブコンテンツとは?

高解像度、高精細、180/360°VR、MR、XR映像、展示イベント、ミュージアム、ドーム映像、IMAX大型映像、3D立体映像、マルチビジョン、バーチャルプロダクション、ライブ映像、プロジェクションマッピング、など。今までのくくりに収まらない新しい映像体験、ビジュアル体験がどんどん生まれています。私たちはそれらの新しいコンテンツをイマーシブコンテンツと呼び、捉え直していきたいと思います。

ここで改めてコンテンツの歴史を振り返り、イマーシブコンテンツがどこからやってきたのかを考えてみたいと思います。

イマーシブコンテンツの源流

フレーム拡張の源流 シネラマ(Cinerama)

1952年、映画界はシネラマ(Cinerama)という映写機を3台並列で上映する方式を発表しました。これは当時の世相を物語っています。当時はテレビ放送が始まったころ(※)で、急速なテレビの普及が背景として挙げることが出来ます。

※1936年:イギリスの公共放送 BBC が世界初の定期的な白黒テレビ放送を開始。1939年:アメリカの NBC定期放送開始

映画業界はテレビ放送への脅威から映画の独自性を打ち出すためにさまざまな試みを始めます。そのひとつがフレームの拡張という挑戦です。テレビ放送のフレームは4:3の画面比率に固定されており、映画界はそこに乗じてフレームを拡張することで映画スクリーンの持つ巨大な没入感をアピールしました。

第1作『これがシネラマだ』(1952年)の冒頭、ジェットコースターの主観映像が流れると、湾曲した大画面と7チャンネルの立体音響により、観客は本当に座席が動いているような錯覚(映像酔い)を起こし、悲鳴をあげました。映画を「座って静かに見るもの」から「体験するもの」へ変えた、最初のイマーシブコンテンツといえるかもしれません。前述の「2001年:宇宙の旅」もシネラマ方式で上映されました。

しかし、シネラマ方式は3台の映写機と同期を取るための技術インフラが障害となり、映画館としての普及はしませんでした。日本ではシネラマ方式の映画館は1955年に帝国劇場(東京)とOS劇場(大阪)、のちにテアトル東京(銀座)の3館のみでした。

シネマスコープ 横長へのこだわり

「アナモルフィック・レンズ」という特殊な歪みレンズを使用し、撮影時に映像を横方向に縮めて通常の35mmフィルムに記録し、上映時にプロジェクターへ逆のレンズをつけて横に引き伸ばして映写します。この技術の最大の功績は、「映写機は1台のままで、レンズとスクリーンを変えるだけ」で横長大画面を実現した点です。これにより、世界中の普通の映画館が一気に「横長の没入空間」へと生まれ変わりました。第1作『聖衣(The Robe)』(1953年)の大ヒットを機に、映画の標準(デファクトスタンダード)は横長へと決定づけられました。今でも「シネスコ」の愛称で呼ばれている形です。『アラビアのロレンス』 (1962年)、最近だと「ラ・ラ・ランド」 (2016年)の冒頭シーンには「Cinemascope」というタイトルまでわざわざ入れています。

※「ラ・ラ・ランド」のオープニング 画面がスタンダードサイズから横長タイトルへ引き延ばされ「CinemaScope」のカラータイトルが現れる。映画のノスタルジーを感じさせるシーン

大型映像の源流 アイマックスIMAX

1970年、大阪万博の富士通パビリオンがカナダIMAX社の開発した巨大スクリーンによる上映方式でした。スクリーンサイズは当時高さ13メートル、幅19メートル。IMAX社が初めてその名前の方式で作り出したものです。
同じく、みどり館のアストロラマ方式では初めて全球(半球)型スクリーンに5台の70㎜フィルムプロジェクターで投影しました。アストロラマ(Astrorama)」は、アストロ(天体)とドラマ(劇)を掛け合わせた造語です。この方式はニコンと五藤光学の撮影用魚眼レンズと上映方式が用いられました。これらの方式には当時の技術の粋を結集した新しいコンテンツに挑戦するエネルギーを感じます。

HFRの源流 ショースキャン(ShowScan)

ショースキャンShowScanは、映画『2001年宇宙の旅』や『未知との遭遇』『ブレードランナー』の特撮(VFX)監督として世界的に有名なダグラス・トランブルDouglas Trumbull(1942 – 2022)によって開発された特殊な70mmフィルム上映システムです(※)。この独自の70mmフィルムフォーマットは60fpsで再生され、ホログラフィックサウンドが組み込まれていました。これらの技術の組み合わせにより、観客は投影された映像ではなく、生のイベントを見ていると確信できるような体験を得ることができました。この流れは今のHFR(High Framerate)に息づいています。ディズニーランドの「スターツアーズ」に代表されるライド型アトラクションもこのHFRの流れを汲んでいます。

※ショースキャン社 ピーター・ビールとダグラス・トランブルによって設立した新しい映像開発制作会社 https://peterbeale.com/

ドームシアターの源流 オムニマックスOMNIMAX

それまで映画館のスクリーンは「前方を向いて座って観る」ものでした。しかしドームシアターは、映像が頭上から覆いかぶさり、人間の周辺視野(視界の約80%)をすべて映像で埋め尽くすという、全く異なる身体的没入アプローチを完成させました。1973年、アメリカ・カリフォルニア州のフリート・サイエンス・センターに世界初の常設オムニマックスシアターがオープンしました。ドームスクリーンを前方へ25〜30度傾け、客席も階段状(スタジアムシート)に傾斜させて全員を同じ方向へ向かせるという画期的な構造を考案しました。これにより、観客は首を痛めることなく、まるで「宇宙空間にふわりと浮遊している」かのような、圧倒的な一体感を味わえるようになりました。通常の映画の約10倍の面積を持つIMAX 70mmフィルム(15p/70mm方式)」を横方向に走らせ、超広角の魚眼レンズを使ってドーム内壁に一発で投影しました。これにより、視界の端まで一切ボケない、驚異的な解像度の全天周空間が完成しました。

1981年、神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア’81)のダイエーパビリオン体験劇場で日本初のオムニマックスが登場しました。建物自体が「地面から45度の角度でそびえ立つ直径31メートルの巨大な斜めの円柱」という衝撃的なデザインでした。ここで上映された『ワールドコースター<地球一周19分>』は、観客がまるでジェットコースターに乗って世界中を爆走しているかのような主観映像であり、あまりの迫力に「映像酔い」する観客が続出しました。

1985年、つくば博覧会の富士通パビリオン(コスモドーム)
それまでのオムニマックスは実写フィルムが中心でしたが、富士通は直径20メートルの傾斜ドームを使い、世界で初めて「全天周の3D・CG映画(『ザ・ユニバース』)を上映しました。

1989年にはデンマーク(コペンハーゲン)ティコ・ブラーエ・プラネタリウム(Tycho Brahe Planetarium)が常設館として登場しました。
日本でもオムニマックスのドーム型シアターが作られました。横浜こども科学館(現はまぎん こども宇宙科学館)、大阪市立科学館、大宮市宇宙劇場、鹿児島市立科学館などが挙げられます。
特に鹿児島市立科学館は今でも本物の「70mm超巨大フィルム」による本物のオムニマックス上映を維持し続けています。

アナグリフ3Dの誕生

1952年の『ブワナの悪魔(Bwana Devil)』の大ヒットを皮切りに、ワーナー・ブラザースの『肉の蝋人形(House of Wax)』(1953年)やアルフレッド・ヒッチコック監督の『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)など、多くの3D映画が作られました。
当時は2台の映写機を完全に同期させ、観客が「偏光メガネ(または赤青のアナグリフメガネ)」をかけて鑑賞しました。この時代の演出は、「画面から観客に向かって、やりや槍、猛獣、生首などが突き出てくる」という、視覚的なショック(飛び出し効果)で観客の身体をのけぞらせるアトラクション型の没入体験でした。 以降、30年おきの3Dブームが起こりました。

「飛び出す」から「奥行きの構築」へ

キャメロン監督は、1950年代の「観客の目を驚かせるために物を飛び出させる」チープな3D演出を全否定しました。彼が目指したのは、「スクリーンの向こう側に、どこまでも奥行きが続く、本物の1つの世界(惑星パンドラ)の空間を実在させる」ことでした。

3D立体映像

デジタルプロジェクターによる技術革新

映画館がフィルムからDLPデジタルプロジェクターへと移行したことで、1秒間に144回も左右の映像を高速で切り替えるなど、「人間の目が一切疲れず、画面のチラつきもない完璧な立体世界」の構築が可能になりました。世界中の観客が「映画を観た」のではなく「惑星パンドラへ旅をして帰ってきた」という未曾有の精神的没入(イマーシブ)を体験したのです。

VRの衝撃

2016年、VRが、ついに一般の家庭へなだれ込みました。3月にOculus Rift(CV1)、4月にHTC VIVE、10月にソニーのPlayStation VR(PSVR)が発売されました。現代のVRブームの幕開けでした。現実世界にキャラクターを重ねるARから、現実の部屋の壁や机の形をセンサー(LiDARなど)でリアルタイムに3Dスキャンし、現実の机の上に、デジタルのキャラクターがちゃんと着地する」「壁の向こうからデジタルオブジェクトが飛び出すといった、現実とバーチャルが物理的に融合するMRへと進化しました。
近年のMeta Quest 3や、Appleが発表したApple Vision Pro(空間コンピューティング)は、完全な没入(VR)と現実(MR)を、高精細な外付けカメラ映像を内側のディスプレイに映す「ビデオパススルー」によって一瞬で行き来することも可能になりました。

イマーシブコンテンツとは?

さて、いよいよイマーシブコンテンツの核心に迫っていきたいと思います。

イマーシブの3つの方向性

Immersive Content 3 Dimentions

イマーシブを考える上で重要な3つの方向性

ここで私たちはイマーシブ(没入感)という定義を次の3つの方向性の中に見出していきたいと思います。
ひとつ目はフレームという考え方です。

Frame フレーム、画角の解放

画角Angle of viewと視角Ⅴisual Angle

映像のフレームは映画の創生期から生まれ、時代を経て進化してきました。初期のスタンダードと呼ばれる4:3(1:1.3333)のフレームはのちのテレビ放送の原型フレームになっています。その後、映画のサイズは横長になってきていますが、それはあくまで映画館のスクリーンという規格が存在していたからにほかなりません。映像が映画館やテレビ放送という規格からインターネットやVR、新たな映像施設に変化してきた中では視覚そのものの持つ意味が薄れて来ています。

Spatial スぺ―シャル 空間認知、空間認識の進化

今までのフレームはスクリーンという投影面を前提とする二次元だったのに対して、新たに奥行き、距離、広がりという概念が加わって来ています。VRの世界では視差のある2つの映像を処理することで奥行きを表現しています。また、ゴーグルに装着された複数のカメラ、デプスカメラ、LiDARなどの空間スキャンすることで実際の部屋や物体、周囲のオブジェクト環境を把握し、そこに新たなバーチャルなオブジェクトを配置したり、影を落としたり、モノの陰から出現させたりが出来るようになりました(オクルージョンOcclusion機能)。また、実際の環境に対する音源の配置、移動、音響の反響や吸収、残響まで反映させることが可能になってきています(Sound Occlusion 音響の環境反映)。さらに進めればバーチャルな物体の接触感覚などをフィードバックするHaptics ハプティクス技術につながっていきます。このような空間認知の考え方がSpatial=空間コンピューティングの概念です。まさにリアルとバーチャルの境界線がなくなり、お互いに存在、共存し合う空間が始まっています。

※pass through パススルー

Experience エクスペリエンス 鑑賞から主体への変容と体験価値の向上

イマーシブにおけるExperienceとは単に観客ではなく、当事者になる、あるいは自分が参加者の一部になるということによって、今まで以上の感覚の変化、意識の変化がもたらされます。
ですので、より体験の質が深く、記憶や意識に刻まれることで印象度が増していきます。これはひとつのコンテンツの価値を高める上では非常に有効なことです。これはイマーシブにおける知覚と体験の相乗効果と呼べると思います。

しかも体験というのは今まではコンテンツを鑑賞するといった「受動的な」体験だったのに対して、自らがその主体になるというか参加者になる、ともすれば発信者になるという価値観の変容をもたらしています。これは焚火に例えるならば、今までは焚火の炎を目の前で見ていたとしたら、イマーシブは自らが焚火の燃料や燃える材料になっていくような感覚かもしれません。自らがその燃える炎の材料になることで体験価値のバリューは確実に上がることになります。

当事者になる

体験感覚の拡張

境界線が曖昧になる

映像のストーリーが重要なのではない

「人間がリアルやバーチャルな空間と境界線なしで融合し体感できる」という新しい身体感覚そのものが、人間に与えられた新しいメッセージ(影響)であり、体験なのです。

今までの『視覚』だけの鑑賞に対して、イマーシブは人間を『全感覚的な環境への没入』に変化させます。つまり、メディアが人間の外側にある『道具』であることをやめ、人間と『環境』が一体化する身体拡張の最終形態。それがマクルーハン理論から見たイマーシブ体験の本質です。」
「マクルーハンはメディアを身体の拡張と定義しましたが、イマーシブ体験は『画面という境界線を取り払い、人間の五感と中枢神経系を空間そのものへと拡張する技術』です。

イマーシブ=クール・メディアとしての主体性

マクルーハンは、受け手の高い参加度(情報補完)を必要とするメディアを「クール」と呼びました。

イマーシブの逆説:

解像度(情報量)は極めて高い(ホットである)にもかかわらず、体験としては「究極にクール」です。なぜなら、観客自身が首を振り、歩き回り、当事者として空間に関与しなければ、そこにストーリーや世界が完成しないからです(草稿にある「自らが焚き火の燃料になる」という表現と完全に入致(シンクロ)します)。

本書での説明の方向性: イマーシブコンテンツは、受動的な消費を許さない。「人間の能動性と関与(ハイ・パーティシペーション)を極限まで拡張する、最もクールなメディア」として位置づけられます。

4. 「メディアはメッセージである」の体現

マクルーハンの「技術そのものが社会構造や感覚を変える」という理論に基づくと、イマーシブの真のメッセージは映像のストーリーではなく、「リアルとバーチャルが融合し、空間そのものを体感する」という人間の認知・身体構造の劇的な変化にあります。


イマーシブの表現的要素

では、イマーシブにおける具体的な表現的要素、技術的要素を考えてみましょう。
今のところ11の技術的要素と7の技術的要素に分けています。

11の表現的要素

イマーシブコンテンツを考えるにあたって、私たちは技術的、感覚的な見地から表現要素を見ていきたいと思っています。

Stereoscopic 3D立体映像

アナグリフからフルカラー立体、裸眼ディスプレー、Depth Camera、3Dテレビ、3D映画、VRまで

VR XR AR 180/360° メタバース

180・360パノラマ、クロスリアリティ、プラットフォーム、Ⅴtuber

Spatial XR AR 拡張空間

空間認知、空間コンピューティング、エクステンションリアリティ

Giant Screen ジャイアントスクリーン

大型映像、IMAX

Multi Display マルチビジョン、3Dビジョン

複数のスクリーン、Anamorphic Illusion

Dome Screen ドームスクリーン

LEDドーム、プラネタリウム

Stereophonic 立体音響

アンビソニック、VR音響、オブジェクトベース

Virtual Production バーチャルプロダクション

InCameraVFX、ゲームエンジン、バーチャルカメラ、バーチャルアバター

Projection Mapping プロジェクションマッピング

カメラマッピング、Anamorphic Illusion

Location Base Entertainment ロケーションベース施設

展示、アトラクション、ミュージアム、イベント

Immersive Live Experience ライブ体験

ライブ映像・ライブパフォーマンス

7つの技術的要素

Sensor Scan Device センサー・スキャンデバイス

Tracking、Volumetric Scan、LiDAR

RealTime Graphics リアルタイムグラフィックス

ゲームエンジン、照明DMX、実写合成、影、映り、インタラクティブ

Generative AI 生成AI

画像、動画生成、デプス、3D Gaussian Splatting

LED Panel LEDパネル

Micro LED、Mini LED、HDR、Flexible LED、

Motion Control モーションコントロール

カメラ制御、同期、デバイス制御、フレームリマップ

Camera Mapping

カメラマッピング、パースマップ、キャストシャドウ

VFX

Visual Effects、Composite、Effects、inCameraVFX